Nゲージ用パワーユニット(パワーパック)の製作

 世間がコロナで仕事も少々暇だった時期に久しぶりに鉄道模型をいじり始め、それに合わせてパワーコントローラ(パワーパック)の製作に手をつけました。どうせ作るのなら、今の時代に合わせてワンハンドルのマスコンを使ったコントローラを作ってみようと、できるだけ市販されている部品を使って試作したメカ部分がこれ。側板とカム、一部の板金部品は特注品です。これにAVRマイコンを使ったPWM制御基板を設計して組み合わせました。

ワンハンドル・マスコン

 鉄道模型(ここではNゲージ)で停止時にも車両のライトを点灯させる、いわゆる常点灯を実現しようとすると高周波のPWMを使うのが常道です。およそ20キロヘルツ以上の幅の狭いパルスであればモータを回すことなくLEDのみを点灯させることができます。但し最近使われ始めたコアレスモータ(スロットレスモータとも言います)の場合は、そうでは無いこともあるようですが、手元にコアレスで照明付きの車両が無いので、ここのところは検証していません。

 この高周波のパルスのデューティ比を上げていけば(周波数はそのままでパルス幅を広げる)車両は走り出します。ところが従来型のモータであると、突然走り出す、いわゆるロケットスタートになってしまいます。もし、実際の車両でこのような起動をしたら乗客は全員転倒し大けがです。そこで、起動をゆっくりとさせるためには高周波ではなく低周波の信号が必要となるのですが、常点灯も成立させるため、低周波と高周波を重ね合わせた信号を使うということになります。低周波はおよそ50ヘルツ前後、高周波は20キロヘルツ以上ですが、この50ヘルツがくせ者で人間の可聴帯域であるので、ある程度回転が早くなるまでジーという音が。ある程度広い部屋や騒音のある場所ではそれほど気にならないかもしれませんが静かな場所では邪魔な音。気分的にイヤなので開発作戦をスタート。

 なぜ音がするかを考えてみると、50ヘルツという低い周波数であるとモータは動いたり止まったりを繰り返しているからということなんですね。特にPWMでは、オンとオフの繰り返しなのでその影響か顕著に表れてしまいます。昔ながらの直流制御のコントローラであれば、モータに印可されるのは直流電圧、即ち電流が途切れることが無いので静かです。ところが直流電圧であると、ある電圧超えたところでいきなり回り出す、先にも述べたロケットスタートで走り出してしまいます。結局、ゆっくり起動するには低周波が必要ということに。でもPWMではだめ。さてどうするかということなのですが、電流をなるべく切らなければ良いということをヒントに初めに試したのが全波整流した正弦波。50ヘルツ程度の正弦波を用意して、これを絶対値回路を使って全波整流(正弦波のプラス側にマイナス側を反転したものを加算した信号)し、これを元に高周波の常点灯用のPWM波と合成しトランジスタまたはMOSFETで出力。これで静かに回せました。

signwave

 波形を見ると分かりますが、オフ(=0)になっている時間が短いんですね。結果、ジーとかブーとかいう耳障りな音は聞こえません。おまけに上品にゆっくり起動させることができます。まあ、これでも良いのですが綺麗な正弦波をワンチップで出せる安価なICが現時点ではないこと。だいぶ前だとICL8038といった便利なICがありました。何か無いかと探していたら、XR-2206というICを見つけて海外から送ってもらったのですが、メーカーでは既に製造中止。オペアンプで正負両電源を使って作るのもどうかなと考えていたところ閃きました。三角波でどう?三角波であれば比較的簡単なオペアンプ回路、おまけに単電源で作れそうだということで早速試作。ただ、当たり前の話しですが正弦波にせよ三角波にせよデューティを100%(ハイベタ)には出来ないんですよね。でも、実際のところ必要としているのは最高速ではなく「上品で静かな起動と加速」なので、ここは割り切ろうということで、三角波と高周波のPWMの合成で動作検証を進めました。

tri-wave

 検証中に「リバースエンジニアリング」で他社製品を試してみたときに気がついたのですが、常点灯用の高周波パルスは連続で出さなくても良いのだと。(さすが専業メーカーだけあって、うまく工夫されています。)そこで早速、低周波の三角波を基準にしてコンパレータで三角波の一定区間を取り出して、その区間のみ高周波を合成したところ超低速な部分がさらに下げられました。この起動と低速性能であれば「お召し列車」を引いても文句は出ないのではないでしょうか。

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 高周波の幅の狭いパルスは従来型のモータでは回転力にはならないと考えていましたが、実のところは回す力になっているということですね。点灯に必要なだけのパルスを合成することで不要な駆動力を減らせるので、結果として低速性能が更に良くなるということだと思います。この検証の終わった回路でプリント板の設計が終わったので、近日正式なものを組んで再度動作を検証します。

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